2016年8月24日(水)~26日(金)の3日間にかけてパシフィコ横浜にて開催されている、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2016」。
本稿ではカンファレンス初日に行われたCygamesの「ShadowverseのゲームデザインにおけるAIの活用事例、 及び、モバイルTCGのための高速柔軟な思考エンジンについて」より、シャドウバースのAI活用術を簡潔にお伝えする。
登壇者
株式会社Cygames リサーチャー
佐藤勝彦氏
大前提
ほぼすべてのTCGに言えることだが、「環境の変化」は絶対の宿命である。新カードの追加、新能力、パラメータ調整、ルール変更、流行の戦術、デッキの変化、多様化etc...これらに対応できなければ、AIの要件は満たせない。
▲9月下旬には新カードが追加予定。
ただ、そもそもTCG(対人戦メインのゲーム)にAIは必要であるのか?
佐藤氏は「AIに必要な役割は3つある」と語る。
「デッキ・プレイングの例示、教唆」
「デッキ調整の練習台」
「感情表現による劇的な舞台の演出」
初心者の手本となるAI
AIのレベルデザインは「プレイヤー自身が気づきを得るための導線と学習曲線」を意識して設計されている。
ゲームを始めたばかりのユーザーへは、本タイトルの特徴である「進化」を活用して局面を取り戻せることを教えのだ。不利な局面でのみ進化を使用し、また、適度にいい勝負感を出して進化による逆転劇を演出する。
そして、慣れてきたユーザーの相手をする場合は、プレイヤーの使用するクラスの特性を考慮して進化を行い、捌きにくい局面を形成する。プレイヤークラスの苦手とする局面を体験させるのだ。その際、カードは低レアカードのみで構築し「プレイングの差異」に焦点を向けやすく設計されている。
■デッキ調整の練習台である為に…
シャドウバースではドローの操作・積み込みを禁止している。デッキ調整時のシミュレータとしての価値を下げない為にユーザー同士の対戦と条件は同じである。
■感情演出でプレイングの質を評価。
優れたプレイングには喝采や驚嘆し、逆転劇をより劇的に演出する。それぞれクラスの特性から、好手・悪手を判断して感情を表現する。
■ユーザーを萎えさせない適度な手加減。
このように3つのパターンがある。①と②のプレイに非常に大きな差があるのは当然わかるだろう。ただ、②と③はプレイする順こそ同じであれ、1つターンをまたぐことによって③のプレイに違和感は一切ない。
①1ターン中に「バニラ⇒ホワイトジェネラルをプレイ」し、カードを展開しつつ強化。
②1ターン中に「ホワイトジェネラル⇒バニラをプレイ」し、強化せずにカードを展開。
③先のターンに「ホワイトジェネラルをプレイ」、そして次のターンに「バニラカード」をプレイ。
このようにAI側の手札が見えないということを利用してユーザーの萎えない適度な手加減ができるのだ。
AIはなぜ幾多にわたる戦術に対応できるのか
なぜ、幾多有る戦術にAIが対応できているのか。それは、状況の変化に応じて計画を再修正している為である。長期的な行動計画と短期的な行動計画ではどちらの精度が高いだろう。もちろん短期的な行動計画である。したがって、短いスパンで行動計画を再修正することで、AIの柔軟性・対応力は増すのである。
また、行動計画を立案し実行、そして修正する。という処理を細かいスパンで行うことでCPUの負荷自体も減る。
▲長期的な行動計画を考えるとその処理は莫大だ。
筆者もシャドウバースの1プレイヤーである。先日実装されたメインストーリーの難易度が非常に高いという噂は受け取っている。本セッションを受け、より一層その難易度の高さが楽しみになった。実際AI側でのドロー操作・積み込みがないのであれば勝てない相手ではないのだろう。